東札幌病院の緩和ケア

東札幌病院のチームアプローチによる緩和ケア

東札幌病院の”緩和ケア”について

緩和ケアは、以前ホスピス・ケアと呼ばれていました。「ホスピス」の語源はラテン語で「もてなす人」と「もてなされる人」、つまり人が人を「人として」ケアすることを意味しますが、このホスピス精神=人を人としてどんなときにも手厚くケアする精神が当院にそのまま受け継がれています。緩和ケアは本来、このホスピス・ケアの精神をそのまま受け継ぐものであり、決して「症状のコントロール」だけが緩和ケアではありません。当院ではすべての専門科の医師がこのような意味での緩和ケア精神に立って診療を行おうと努めています。患者さんを(人として)その全体として見て、病気そのものに対する治療と症状コントロールの両者に対して、その時々に最も必要なことを適切に組み合わせて行い、患者さんの為にベストを尽くすことを心掛けています。

東札幌病院の”緩和ケア病棟 Palliative Care Unit (PCU)”について

緩和ケア病棟 Palliative Care Unitの存在が当院の大きな特徴です。東棟と西棟に各々30床、28床計58床の病床数は東日本最大であり、緩和ケアの要となっています。当院では一般病棟でも緩和ケアを行う場合がありますが、この病棟は特に症状コントロールと精神的ケアやスピリチュアル・ケアを含む全人的ケアが必応な患者さんに十分対応できるように準備されています。

症状コントロールと”全人的“ケア

当院では、症状コントロールと”全人的”ケアに関しては、日本、世界の標準治療(ガイドラインを含む)に則ることはもちろんですが、日夜世界の最先端の緩和ケア研究を照会しつつ、その最新の知見をも取り入れてきました。それは、オピオイド等の鎮痛剤の使い方からがん患者さんの心理的問題、スピリチュアル・ケアにまで及んでいます。

症状コントロールの実際

*WHOの3段階除痛ラダー(梯子)

がんの痛みには、WHOの段階的除痛方式*に従って非オピオイド系鎮痛剤から弱いオピオイド**、そして強いオピオイドへと薬剤を選択し、できるだけ副作用が少なくかつ効果が最大となるように薬剤を調整していきます。さらに神経を冒す痛み(神経障害性疼痛)等の難治性疼痛には、抗うつ剤や抗てんかん薬等オピオイドとは違う種類の薬を組み合わせて効果的な鎮痛を図ります。複数のオピオイド等を組み合わせて副作用の軽減を図りながら、その相乗効果で鎮痛効果のアップを狙ったり、当院に来られた時には大量に使われていたオピオイドを著明に減量させるということも行ってきました。常に世界の最新の知見に基づき、薬剤の効果的な使用法を日夜追求し続けております。

***オピオイドとは、モルヒネやフェンタニルなどの植物アルカロイドとその誘導体、エンドルフィンやエンケファリン類などの内因性オピオイドペプチド、およびトラマドールやナロキソンなど合成麻薬の総称。がんの痛みのコントロールの為に使われる中心的な薬剤。この薬剤の性質に習熟した緩和ケア医の適切な使用により、安全かつ非常に効果的にがんの鎮痛を計ることが可能となります。

多職種チームによる“全人的”ケア

”緩和ケア”は、単に痛みや呼吸困難などの身体症状を軽減することだけを目指すものではなく、患者さんの立場に立って、そのすべてのニーズを満たそうと努める”全人的”ケアです。そのニーズは、身体的症状、心理的問題、家族や職場や社会との関係、死への恐れや死の過程への不安等の実存的問題までもを含み、これらをすべて満たす為に、私達は、内科医のみでなく、精神科医、看護師、ソーシャルワーカー、理学療法士、薬剤師、栄養士等の多くの職種で一つのチームを作り、患者様の状態を全人的に評価し、それに基づいて協力し合って、日々ケアを行っています。

東札幌病院の”緩和ケア”の国際的広がりについて

このような当院の医療思想とその実践は、日本だけではなく、世界にも大きな影響を与え、それは、来年第3回を迎え、札幌にて当院主催で開催される”がん緩和ケアに関する国際会議”として結実しています。この会議は、世界の一流の緩和ケア研究者が一堂に会し、世界の最先端の緩和ケア研究を論ずる場であり、その思想基盤も、同じ、人を人としてどんな時にも手厚くケアする「基本的人権擁護としての緩和ケア」なのです。

設立時からこのような精神に貫かれた当院の緩和ケアを多くの患者さん達に是非体験して頂きたいと思っております。

緩和ケア科科長 中村 健児