町野緩和ケア部長 インタビュー

緩和ケアとは

緩和ケアは、「生命を脅かされている患者とその家族のQOLを向上させる」医療といえます。

具体的な医療内容としては身体的・心理的、社会的、スピリチュアルな苦痛を的確にアセスメントし予防・改善することです。

例を挙げると、患者さんの痛みに対して医療用麻薬をはじめとする鎮痛剤を用いて疼痛の緩和を図ったり、自分で動けない患者さんの日常生活動作を介助したり体力の維持・回復を図ったり、経済的に困っている患者さんとそのご家族が利用できるサービスについて情報提供したり、など、医師・看護師のみならず様々な職種の医療従事者がチームとなって、個別の患者さんやそのご家族のQOLを低下させている医療的な課題に取り組みます。

現在、がん、心疾患、呼吸器疾患、神経疾患、腎不全、感染症など様々な疾患で緩和ケアは必要と考えられています。

日本では、死因別に見ると、がんで亡くなる方の割合は30%ほどで、全体で見ると心疾患や脳血管疾患、肺炎などを含む非がんの方の割合が多いのですが、がんは、緩和ケアのモデルとなる疾患であり、モルヒネなどのオピオイドは緩和ケアを象徴する薬剤と言えます。しかし、実際にはオピオイドなどの薬剤だけで苦痛を緩和するのが非常に困難な症状もあり、放射線治療や外科的処置などが非常に有効な手段となる場合も多々あります。

薬剤以外の治療としては、放射線治療を行うことで骨転移の疼痛やがん性創傷からの出血、運動麻痺の予防を行ったり、当院で対応困難な泌尿器系の症状や脳転移などの症状に対しては、外部の医療機関にご依頼して処置をしていただいたりする場合もあります。

WHOが1990年に最初に公表した緩和ケアの定義は「治療に反応しなくなった患者に対する全体的な医学的ケア」でしたが、2002年にWHOが公表した緩和ケアの定義以降、現在では冒頭に示した通りで、(病気の治療の副作用などに対する)支持療法、終末期ケア、死別後の遺族ケアなども緩和ケアに含まれています。

WHOの1990年の定義のため、患者さんやご家族、医療従事者の中でも、緩和ケアと言えば「終末期」のイメージが強いと思われますが、実際には病気が診断された時点から、病気を治すために行われる治療と並行して提供されるケアが緩和ケアであり、これが現在の日本の集学的がん医療と言えます。

当院でも、最近は大学病院の外来を通院しながら、がんの治療を行っている患者さまを当院の緩和ケア内科外来にご紹介いただき、苦痛症状や治療の副作用薬剤の調整に関して介入させていただいている方も少しずつですが増えてきております。そして、がん治療が終了した後は、当院の外来で継続して緩和ケアを継続しています。

また、患者様が亡くなった後には、ご遺族の方々どうしや、入院中に関わった医療スタッフと触れ合う「茶話会」のご案内をさせていただいており、継続的に茶話会に参加いただいているご遺族もいらっしゃいます。

東札幌病院の緩和ケア病棟の特徴

当院は開院以来、がん治療の専門医療機関からの、がんに対する有効な治療が出来なくなったがん患者さまを多くご紹介いただき、診療してきました。

そのような歴史的背景もあり、当院の緩和ケア病棟では主に、様々な理由から自施設でのがんの終末期診療が難しいといった医療機関からご紹介いただいた患者さまの緩和ケア診療を行っています。

入院は必要のない程度の症状の患者さまの場合は、外来通院で緩和ケアを提供させていただいておりますが、症状が増悪した際に緩和ケア病棟に入院して治療を行い、症状が緩和された場合は、退院して再び外来通院に戻る、といった診療も行っています。

また、訪問診療を利用して自宅や施設で療養しているがん患者様の症状が悪化した際に、緩和ケア病棟に入院していただき、治療によって症状コントロールが付いた場合は退院して在宅診療に戻られる患者さまもいらっしゃいます。

つきっきりで介護に当たっていて、大事な用を足すことが出来ない、介護されているご家族が疲弊してしまわないように、病状が安定している患者さまでも、一時的に緩和ケア病棟に入院していただけます。

緩和ケア病棟入院中は、薬剤の他に、観血的処置や放射線治療などを用いた身体的苦痛症状の緩和や、札幌医科大学附属病院の協力のもと、非常勤の精神科医師と臨床心理士による不眠やせん妄、抑うつなどの精神症状の緩和に対応しています。

また、食事や排せつ・保清の介助やケア、体調や内服薬の管理や、身体能力や嚥下・呼吸機能の維持や向上、リラクゼーションなどを目的としたリハビリテーションを提供しています。医療費など経済的な支援が必要と思われる患者さまや、退院後の療養生活の工夫が必要と考えられる患者さまには、医療ソーシャルワーカーが介入して利用可能な介護・医療サービスを情報提供させていただいたり、他の関係機関との調整を図ったりしています。

当院ではボランティアの方々によって、様々な趣向を凝らしたデイケアが毎日開催されています。COVID19流行期間中は活動を休止しておりましたが、COVID19流行前は、院内のコンサートや映画上映会、クリスマス会、ペットセラピーなどが毎年行われておりました。

現在、徐々にですがボランティア活動も再開されてきており、昨年より夏祭りも開催しております。これから、様々な院内イベントが順次再開されるのではないかと期待しております

当院の緩和ケア病棟は、COVID19終息後はいち早く面会の規制を解除した病院のひとつで、現在は面会に人数・時間・年齢の制限は設けておりません。常識の範囲でいつでも希望の時間に来院していただき、大切な人たちとの時間を過ごしていただければと考えております。

また、個室であれば、ペットの面会も可能です。

当院の緩和ケアで大切にしていることは一人ひとりの患者さまに提供する緩和ケアを「個別化(最適化)」することと、患者さまの「人権擁護」です。 ですから、一人ひとりの患者さまの身体症状・心理精神症状に対して適切な治療対応をするだけでなく、患者さまが、一人の市民として安心して入院生活を過ごしていただけるように患者さまやご家族に接する態度・姿勢にも気を付けて日々の診療に取り組むよう努めています。

当院の緩和ケアチームについて

緩和ケアチームは、緩和ケア病棟以外の一般病棟や外来の患者さまやご家族の緩和ケアに当たっています。その中には、がんの化学療法や放射線治療中だが、身体や気持ちが辛いといった患者さまも含まれます。いわゆる「支持療法」の面でも、緩和ケアチームが患者さまや主治医など治療チームの力になれることがあればいつでも診療に参加します。

緩和ケアチームは、医師・看護師・薬剤師・栄養士・療法士の多職種で構成されており、毎週、カンファレンスを行いながら、主治医と共に入院・外来患者さまの苦痛緩和に努めています。

地域医療との関係

前述のように、癌の治療を行っている間、癌の治療を終えた後、最期を迎えようとしているときなど、癌の全過程を通じて緩和ケアは提供されますが、緩和ケアを提供する場所は病院に限りません。

最近は、がんの終末期を自宅で過ごしたい・介護したいという患者さまやご家族のニーズも増えてきています。

そのような患者さま、ご家族の要望にお応えすべく、MSWなどによる訪問診療・訪問看護の調整を行っております。他医療機関から在宅療養を検討している患者さまも、いったん、当院へ転院していただいてから訪問診療・訪問看護の調整を行うことも可能です。